「ムーンランド」ストイックな彼の欲望

 

ムーンランド 1 (ジャンプコミックス)

ムーンランド 1 (ジャンプコミックス)

 

 

山岸 菜の「ムーンランド」が面白い。

「ムーンランド」は体操を取り扱ったスポーツ物の漫画で、それはもう真正面から体操というスポーツを、これでもかとクソ真面目に取り上げている。

多くの人にあまり馴染みのない「体操」を、そのルール、採点方法から選手のモチベーションまで、ちょっとした教科書のように要所要所で説明してくる。なんだか少しダサいような気もする、実に泥臭いやり方とも思える。これは多分、ルールの込み入ったスポーツを、少年漫画のスピード感で読者の頭にインストールするのには、物語の中でスマートに少しずつ理解させるより、進研ゼミ的にある程度まとめて解説してしまう方が向いているという判断だろう。この方針は成功しているように思う。この作者の漫画を読むのは初めてだが、この割り切った情報のまとめ方によって実にテンポよく話が進んでいるように思える。マイナー気味なスポーツを題材にする時の一つの解決策なのではないか。

また、表紙やあとがきにあるように、水鳥寿思という体操競技選手を監修として招き、その正確な情報伝達への本気度がうかがえる。

体操というスポーツへの本気度も一つの見所だけども、この漫画でもっとも注目しているのは選手たちの「モチベーション」だと思う。確かに、体操というスポーツはよく知らない人間にとってはいまひとつ目的がよくわからない。この漫画を読むまでは僕もよくわからなかった。しかし、この漫画に描かれる選手たちは皆、実に様々なモチベーションを抱えて体操に取り組んでいる。その内的世界の多様さこそ、この漫画の最大の魅力なのだと思う。個人で黙々と取り組むストイックなスポーツだからこそ、練習に対する考え方や、試合に向かう気持ち、そして演技中に到達する自分だけの世界がとてつもなく魅力的で興味深い。

そんな中でも主人公のミツくんの「モチベーション」は少なくとも僕のような読者にとっては特に魅力的だ。無口で黙々と基礎練習を重ねる彼は表面的にはとてもストイックに見えるし、実際そうなのだろうけど、そんな彼を突き動かしているのは「自分の体を完璧にコントロールしたい」という抗い難い「欲望」のように思える。真面目さが限界を突破して狂気に至るキャラクター好きにとって萌の塊のようなキャラクターだと思う。

日常生活でも、ストイックなあの人の頭の中はどうなっているのだろう?と思うことがたまにある。僕自身、全くこらえ性のない人間なので特にそうなのだろう。そんな日々の疑問に対して一つの答えを見せてもらったような気がして、一巻を読んだ時は目から鱗、といった感じだった。ストイックな人は無欲なのではなく、完全性への強烈な欲望が彼を突き動かしているのだ。

それでも最新の4巻では己のこの欲望に付き従うだけでなく、チームのために競技に取り組まなければならないのではないかと苦悩する姿も描かれる。人としてあるべきモチベーションと、人を狂気じみた天才へ変貌させるモチベーションは全く違う。これからも目が離せない作品だ。